NPO法人 緩和ケアサポートグループ(PCSG)
PCSGレター No. 3(2009年11月)
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河 理事長からのご挨拶
11 月に入り、年賀状印刷や、お節料理の注文広告が目に付くようになりました。そしてクリスマスツリーの登場! 初めての決算を出し、総会が無事に済んだと喜んでいたのがついこの間の気がするのに…。まさに「光陰矢のごとし」です。そして季節のめぐりとは違った形で、私たちの周りには多くの変化が重なってきています。短かった夏の終わりには政権交代という出来事もありました。
今日(11 月7 日)参加してきた第33 回日本死の臨床研究会年次大会(名古屋国際会議場)の教育講演では、名古屋大学総長の濱口先生が、急激に進行中のパラダイムシフトが私たちの現在と将来にどんなに危機的状況をもたらすか、データを示して切々とお話されました。人口爆発、科学技術の進展によるヒト遺伝子の解明、IT 革命とグローバリゼーション、超高齢社会…。そのなかで生きている感覚の希薄化が生じ、階層化、貧困化が進み、自殺者が増加している事実。ではどうしたらよいのか、先生はSustainable Society( 継続維持可能社会というような意味)の実現をこれからのテーマとして、そのために「自立」をキーワードにあげられました。
各自が何をできるか考え、自分で実行していく。それはそのとおりだと拝聴しながら、「自立」礼賛の危険も頭をよぎります。ホスピスケアに関わって感じるのは「自立」を失っていく過程に耐えられない苦悩の深さです。自己の努力、自立の矜持だけで生きることの危うさでしょうか。自立を求め自立して社会貢献することが可能であるのはもちろん素晴らしいことです。ただ、それを可能にする力や環境が自分以外の存在から与えられていると認める謙虚さ、然るべきときには自分の力を手放せる覚悟、それらのバランスをいかに形作れるか、そこにケアのありようを考える基点もあるのではないかと。皆さんと共に練っていきたいテーマです。
年2 回発行予定のニューズレター2009 年度第1 号の発行が遅れて申し訳ありません。通算3 号目ということで新しい内容を少し含めました。皆様からの投稿もお待ちしております。
2009年度前半の報告
■「コミュニティケアをはぐくむ‘ 希望の会’」研修会構成5 団体の一つとして毎回何名かで参加しました。
・第3 回研修会: 4 月30 日(木)武蔵野公会堂ホール
「薬の使い方-目薬から麻薬まで!」
講師:立川談慶(落語立川流)
軒原 浩(国立がんセンター中央病院)
藤澤節子(薬局ルンルンファーマシー)
・第4回研修会:6 月13 日(土)武蔵野商工会議所
「スピリチュアルケアって何?」
講師:ウァルデマール・キッペス(臨床パストラルケア教育研修センター)
・第5 回研修会について少し詳しく報告します。
9 月26 日(土)、会場の吉祥寺東急イン「けやき」には受付と同時に次々と参加者が訪れ、開会後まもなく定員の90席が埋まってしまいました。プログラムは、東京老人ホーム理事長の内海先生から「希望の大切さ」を意識づけるごあいさつをいただいて始まりました。まず、同ホームの総合施設長 五十嵐先生がケアの現場からの報告をなさりつつ、老人ホームなどの施設が「自宅(=各人の居場所)」となり得ているか、将来なり得るかを、課題提示してくださいました。利用者、家族、ケア提供職、ボランティアなどの共生、共助、共働、共に学ぶ姿勢の必要をあらためて心に覚える内容でした。
その後、リラ・プレカリア(祈りのたて琴)代表のキャロル・サックさんが美しいハープ演奏と歌を聞かせてくださいました。子守唄、祈り(フランスの)、グレゴリオ聖歌の3曲はまさに天上からの調べのようでした。キャロルさんたちが患者さんのベッドサイドで大切にしておられるのは、愛と尊厳を届けること、患者さん自身が指揮者なので患者さんの呼吸に合わせて奏でること、なじみのない(日本語ではない)歌を歌うことで患者さん自身が未来へ、新しいことへ向かっていけるようにするということだそうです。
最後に立教大学名誉教授(前コミュニティ福祉学部教授)の関先生が「響鳴するいのち-ケアを通して考える」というテーマでご講演くださいました。深くかつ広がりのあるお話で、要約することが難しいのですが・・・そのとおりだなぁと何度もうなずきつつ聞かせていただきました。
自死者が年間3万人を超える現社会の価値観は「生産性」や「社会性」であること、「健康」が義務化され、健康でないことを差別・排除する社会となっていること、そのような社会を共同体・コミュニティへと生まれ変わらせるのが「ケア」であることを語られました。ケアは「いのちのゆたかさ」を学びあうものであり、「驚き」の経験であり、「響鳴するいのち」となるという素晴らしいことばをいただきました。個人的には、健康は「五体満足な状態」をいうのではなく、「現実と共に生きていける強靭な(しなやかな)態度」をいうのだとおっしゃったことが強く印象に残っています。
昨秋ゆるやかな協働体として始まった「希望の会」。
この会の今後の活動への希望、そしてわがNPO法人緩和ケアサポートグループの希望もいただいた研修会でした。
■ NPO法人PCSGの活動
・8月27日(木)に武蔵野公会堂会議室にて第1 回の高齢者ケア学習会を開催しました。テーマは「高齢者をささえる福祉・医療と市民社会」、講師は、元厚生労働省社会保障担当参事官、元内閣府大臣官房審議官(NPO および国民生活担当)の河 幹夫さん。参加者は14 名。少人数だけに、ゆったりと、講義を聞くことができました。
社会保障制度整備に長年関わってきたなかでまとめた「社会保障のサービス給付の構造」という一見難しげな図が提示されました。例えはわかりやすく、ヒューマンサービス授受(舞台の上での演目)と、サービスを支援する費用(舞台の演目を支える舞台装置)の仕組みを学びました。このような俯瞰図を念頭に、私たちの活動の位置付けを確認しつつ、演目がよく演じられるためにはどうしたらよいか、考えていく必要があるわけです。
関心の高い参加者の方々と講師との質疑応答もあり、臨床実践での視点とはまた違う視点に気づくことができたように思います。
・また、東京老人ホームの「医療連携に向けての研修会」で介護職(9 名)の方々への講義を担当しました。これは今年度PCSG の事業計画にあげた「医療・福祉従事者支援事業」と位置づけています。
8月8日(土)午後には、中神副理事長が「生きること病むことへの理解 ~循環器系・呼吸器系への理解~」というテーマで、ホメオスターシスとバイタルサインについて、循環器系・呼吸器系の仕組みと働きについて、講義をしました。その後、参加職員に‘ 希望の会’の藤澤先生、五十嵐先生、私たちも加わり、介護職の直面している医療連携に関連する問題について2時間にわたって話し合いました。介護職の方々の戸惑いの現状の一端を知ることができました。
10月29日(木)には、河理事長と中神副理事長で「ターミナルケア」2時間、「医療用具の知識」1 時間を担当し、最後の振り返りの話し合いにも参加しました。介護の場で、医療的処置を必要とする利用者は増えており、今後、治療病院の入院期間短縮、療養型の病床の減少がその傾向に拍車をかけると予想されます。厳しい現実ですが、参加職員の発言の中に、医療に関する基本的知識を学ぶ必要と共に、ケアの核心となるのは日常の丁寧な関わり方であることが意識されていることを感じ、心強く思えた振り返りでした。
今後もこの研修会は継続されるようです。担当講義内容の充実を図るために、ぜひ皆様の協力をお願いしたいと思います。
―ライフ・レッスン―
ホスピス緩和ケアの発展に大きな影響を与えた「死ぬ瞬間-死にゆく人々との対話」の著者エリザベス・キューブラー・ロスは、晩年に病の床で、同労者デーヴィッド・ケスラーとの共同作業により「ライフ・レッスン」という味わい深い書を著しています。14 のレッスンの中から、印象に残る文章を少しずつ紹介していくコーナーを作ってみました。
◆第1章「 ほんものの自己」のレッスン より
*ガンジーからヒットラーまで、わたしたちはどんな人間にもなれる素因をもっている。ところが、ほとんどの人は、自分のなかにヒットラーがいるとかんがえることを好まない。そんな話には耳をかたむけたがらない。しかし、どんな人のなかにも否定的な側面、もしくはその萌芽がひそんでいて、それを拒絶することほど危険なものはないのである。
・・・略・・・自分が完全無欠な超善人ではなかったということがわかったら、超善人のイメージを脱ぎすてて、ありのままの自分でいる時期にきたというだけのことなのだ。人生のいかなる局面においてもつねに並はずれていい人であるとしたら、それはまやかしであり、にせものである。人生の振り子が中心点にもどるには、軌道の一方の端と他方の端のあいだを何度も往復しなければならない。
・・・略・・・真の自己がみいだせるのは振り子が中心点にあるときだけであり、そのときの自分はなにかを得るためにあたえるような人ではなく、慈悲心から生れた、ほんものの「いい人」になっている。
*(死を前にした祖母から孫への語り)「あたしにはなんの不足もないんだよ。あたしは充実した人生をじゅうぶんに生きた。おまえさんの目には満身創痍で、いのちのかけらしか残っていないようにみえるだろうが、あたしはね、たっぷりのいのちをもらって生きてきたんだよ。人間はパイみたいなものさ。両親にひときれあたえ、愛する人にひときれあたえ、こどもたちにひときれあたえ、自分の仕事にひときれあたえる。だから、死ぬときには自分のパイがなくなっている人もいるだろうさ……自分がどんなパイだったか、おもいだせない人だっている。でも、あたしは自分がどんなパイだったのかが、よくわかってる。これだけはだれもが自力でみつけるものだからね。あたしはほんとうの自分の姿を知って、この世から旅立つことができそうだ。」
ちょっと一服 コーナー
☆そんじょそこらの私が猛烈にお薦めする、傑作映画選(未見は人生ちょっぴり損するかも!?) ☆
《ヒューマン&シリアス映画》
「ゆれる」2006 年・日本 西川美和監督
「ソナチネ」1993 年・日本 北野武監督
「シークレットサンシャイン」2003 年・韓国 イ・チャンドン監督
《青春&恋愛映画》
「あの夏、いちばん静かな海。」1991 年・日本 北野武監督
《痛快エンターテイメント映画》
「運命じゃない人」2004 年・日本 内田けんじ監督 以上 Y.K.
編集後記
札幌にきて2 度目の冬。私ははじめて雪の知らせを伝える「ユキムシ」をみました。
札幌はすでに冬、PCSG レターは第3 号です!今回は、代表から「ライフ・レッスン」コーナー、Y.K. 氏からの映画情報が新たに届いています。
某雑誌に、貧困・困窮者支援の望ましい形として「ワンストップサービス」が紹介されていました。高齢者福祉でいえば、地域包括支援センターがその機能をもっています。縦割り行政の弊害から利用者を守り、そこにいけば「何らかの制度につながる」というもの。緩和ケアにもそういう仕組みを作れないものか、利用者本位で様々な仕組みが作られることを切に願います。 E.K.